少子化問題が深刻化する現代では、選り好みさえしなければどこかしらの大学に入学できる「大学全入時代」を迎えています。
大学進学率も年々上昇傾向にあり、毎年およそ60万人もの人が大学に入学しています。
しかしその一方で、大学を途中で辞めてしまう中退者も増加傾向にあります。
訳あって志半ばで大学を辞めてしまった場合、中退したこと自体に後悔はしていなくても、その後の就職活動のときに不利になってしまうのでは?と不安に感じてしまう人も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、大学中退者が不利にならないための履歴書の書き方や採用担当者がチェックしているポイントについて解説します。
目次
大学中退の現状
履歴書の書き方を説明する前に、まずは大学中退者数の推移と現状について確認しておきましょう。
【出典】大学等中退者の就労と意識に関する研究(独立行政法人労働政策研究・研修機構)1P 大学中退者の推移(推計)
「大学等中退者の就労と意識に関する研究」の大学中退者の推移によると、1990年から2001年までは大学中退者数が右肩上がりとなっていましたが、2001年を境に減少傾向が見られます。
しかし2004年からは中退者が増加傾向にあり、5万人にも満たなかった中退者数は、文部科学省が2014年に発表した2012年度の大学中途退学者数によると、79311人にも及びました。
文部科学省による2012年度の大学中退の状況は、以下のとおりです。
- 経済的理由 20.4%
- 転学 15.4%
- 学業不振 14.5%
- 就職 13.4%
- 病気・ケガ・死亡 5.8%
- 学校生活不適合 4.4%
- 海外留学 0.7%
- その他 25.3%
全体的に見ると経済的理由による中途退学者率が高く、国公立問わず上位3位以内に含まれています。
また、独立行政法人労働政策研究・研修機構が2015年に行った「大学等中退者の就労と意識に関する研究」の調査によると、大学を中退しようと思った主な理由は以下のとおりでした。
【出典】大学等中退者の就労と意識に関する研究(独立行政法人労働政策研究・研修機構)73P 中退しようと思った理由
- 勉強に興味・関心が持てなかったから 51.8%
- 単位が不足したから 49.0%
- 経済的に苦しかったから 29.6%
- 遅刻や欠席が多かったから 22.4%
- 仕事をしたいと思ったから 21.0%
- 友達とうまく関われなかったから 19.5%
- ほかにやりたいことがあったから 18.6%
- 通学するのが大変だったから 12.2%
- 教員とうまく関われなかったから 12.0%
- 病気やケガがあったから 11.4%
- 自分の生活リズムが学校と合わなかったから 11.4%
- しばらく休みたかったから 6.8%
正社員として就職できる?
正社員に就業するまでの期間についても、中途退学者は年々時間がかかる傾向にあります。
下の表の「大学等中退者の就労と意識に関する研究」によると、中退前・または中退後3か月以内に正社員として就業できた大学中退者は2003年で約20%近くでした。
しかし、2012年には約11%といったように半数近くまで減少しています。
【出典】大学等中退者の就労と意識に関する研究(独立行政法人労働政策研究・研修機構)21P 図表1-6 学歴別 正社員就業までの期間
正社員就業までの期間 | 2003年の割合 | 2012年の割合 |
離 学 前 | 4.6% | 0.9% |
離学~3か月以内 | 16.0% | 10.4% |
合 計 | 20.6% | 11.3% |
また、正社員へ移行できない(観察期間中に正社員に一度も就いていない)大学中退者は2003年に34.4%ですが、2012年には45.7%まで増加しています。
それに対し、大学卒業者は15.3%から19.1%と上昇は見られますが、大学中退者の上昇率に比べると大きく下回ります。
正社員移行なし | 2003年の割合 | 2012年の割合 |
大学卒業者 | 15.3% | 19.1% |
大学中退者 | 34.4% | 45.7% |
こうした現状から大学中退者は卒業者に比較すると、就職への困難度が高まっていることが推測されます。
大学中退の最終学歴は?
大学を中退した場合、最終学歴が「大学中退」となるように思えますが、中途退学は最終学歴に含まれません。
最終学歴は一番最後に在籍した教育機関の経歴ではなく、もっとも高い水準の教育機関で卒業した経歴のことを指します。
そのため、大学中退者の最終学歴は「高校卒業」にあたります。
大学中退後に専門学校に通い直して卒業した場合、最終学歴は「専門学校卒業」となりますが、資格取得スクールや職業訓練校などは学歴としてみなされません。
よってこの場合、最終学歴は「高校卒業」のままとなりますので気を付けましょう。
「大学中退」の履歴書のポイント
大学中退は最終学歴ではありませんが、履歴書に記載しても問題ありません。
中退と書くと採用担当者にマイナスイメージを与えてしまうのでは?と思われる方もいるかもしれませんが、必ずしもそれが原因で選考から外されるということはありませんので、中退した事実は記載するようにしましょう。
どういったポイントに気を付けて履歴書を記入すれば良いか、以下の項にて説明します。
学歴の欄に記入
大学中退した経歴は最終学歴にならないので、履歴書のどこに記入すれば良いか迷う人もいるのではないでしょうか。
大学中退歴は学歴としては認められませんが、履歴書の学歴欄に記入する必要があります。
中退した事実を記入していないと、最終学歴の高校卒業後から空白期間が生まれてしまい、採用担当者に不審に思われてしまうため、必ず記入するようにしましょう。
学歴詐称の嘘はNG
最終学歴ではないからといって履歴書に大学中退を記載しないと、場合によっては学歴詐称に問われることもあります。
大学を中退したのに卒業と記入するのはもちろん、高校卒業までしか記入しなかった場合も学歴詐称とみなされるケースがあります。
学歴詐称が発覚すると、採用が決まっていても取り消される可能性があります。
また、入社後に嘘がバレてしまった場合、降格や減給などの処分を受けたり、最悪の場合は懲戒解雇されることも考えられます。
中退理由の説明
中退した理由を必ず履歴書に記入しなくてはならない訳ではありませんが、やむを得ない理由や面接のプラスになる理由であれば記入すべきです。
たとえば次のような前向きな理由の場合、履歴書に記載したほうが良いでしょう。
▼前向きな理由
- 語学留学のため
- 志望進路変更のため
- 社会人として就業するため
新たな目標に向かって意欲をもって中退した場合は、採用担当者に前向きな中退と捉えてもらえることもあります。
自分自身のスキルを上げるための中退理由であれば、中退がプラスに評価されることもあるでしょう。
また、以下のようなやむを得ない理由の場合も履歴書に記載しましょう。
▼やむを得ない理由
- 家庭の経済的な事情のため
- 親の介護のため
- 健康上の理由のため(長期入院など)
やむを得ない事情で中退したとしても、正直に理由を記入することで自分自身に落ち度がなかったことを、採用担当者に伝えられます。
健康上の理由で中退した場合、現在は完治して就業に支障がないことを添えておきましょう。
一方、以下のようなマイナスな理由の場合、コミュニケーション能力の低さや根気のなさなどの不安材料を採用担当者に与えかねません。
この場合、中退理由は「一身上の都合により中途退学」と記入したほうが無難といえます。
▼マイナスな理由
- 学校や人間関係に馴染めなかった
- 単位を落としてしまった
- 何となく勢いで
「大学中退」の履歴書の記入例
それでは、具体的に大学中退をどのように履歴書に記載すれば良いか、記入例をもとに説明します。
▼中途退学の正しい記入例
①大学に入学した年月と学校名・学部名・学科名を記入し、スペースを少し空けて「入学」と記入します。
②同じように1行下へ中退した年月と学校名・学部名・学科名を記入し、スペースを少し空けて中退理由を記入して「中途退学」と記入します。
※「中退」は略語になりますので、必ず「中途退学」と正式名称で記入するようにしましょう。
中退理由が長くなる場合は、中途退学の1行下に理由を記入してください。
編入学した場合の書き方
大学を中退して他の学校へ編入した場合は、以下の記入例のように記載しましょう。
▼編入学の正しい記入例
中退後に編入した場合は、特に中退した理由を記入する必要はありません。
新たな大学に入学した経歴があることから、進路変更したことが採用担当者に伝わります。
理由を記入しないと不安な方は、「志望進路変更のため中途退学」と記入しておくと良いでしょう。
採用担当者が気になるポイント
大学中退者が就活をするうえで履歴書対策をどのように行えばよいのか、頭を悩ませる人も多いことでしょう。
そこで採用担当者が中途退学者の履歴書を選考する場合、どのようなポイントをチェックしているのか、以下の項に紹介します。
大学中退の理由
履歴書に大学中退の学歴があると、採用担当者の心証を害するかもしれないと考える方もいるでしょう。
しかし、昨今では新卒者にこだわる企業も減ってきているため、中退者だからといって選考が不利になるとは限りません。
それよりも、どのような理由で大学を中退するに至ったのかを重視する採用担当者が多いようです。
自分のスキルアップにつながることや、経済的事情などのやむを得ない理由で中退した場合は、マイナス評価には繋がらないことが多いです。
中退後の活動・経験
大学中退後から就活を開始するまでの期間、どのような活動を行って経験を積んでいたのかを採用担当者はチェックしています。
たとえば留学するために大学を中退し、その費用を貯めるためにアルバイトに専念して目標を達成した場合、採用担当者は前向きな中退と捉えると共に、目標を実現するための実行能力があると判断してくれるでしょう。
強みやスキル
採用担当者は学歴ばかりを重視している訳ではありません。
大学中退したことよりも、本人が培ってきたスキルやどのような強みがあるのかを重視する採用担当者は多いです。
在学中に取得した資格やアルバイトでの実務経験は、就活において自分の強みとなります。
留学や編入目的のための中退でなくとも、中退後にアルバイト経験をしたことで新たなスキルが身についていると判断してもらえれば、プラス評価をしてくれることもあります。
人柄や前向きな姿勢
採用担当者がもっとも重視するといわれているのが、人柄や仕事に対する姿勢です。
どれほど高学歴であったとしても、仕事へのポテンシャルやコミュニケーション能力が低ければ、採用される可能性も低くなってしまいます。
採用担当者は履歴書の自己アピール欄を見て、どのような人柄であるかをチェックします。
以下のようなアピールポイントが複数あれば、採用担当者から前向きだと評価される可能性が高まります。
- 明るく前向き
- 誠実で真面目
- 責任感がある
- 行動力がある
- フットワークが軽い
- ポジティブ思考
- 目標に向かって努力し続ける
まとめ
昨今では働き方が多様化してきているため、大学中退が必ずしもデメリットになるとは限りません。
中退した過去を隠そうとするより、むしろそれを逆手にとってアピールポイントに変えることができれば、就活でも良い結果を得られることでしょう。